ペインクリニック

肩甲上神経ブロック

肩甲上神経ブロック

肩甲上神経ブロックは、肩の痛みをとるための代表的なブロックです。

肩甲上神経ブロックは、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)の患者さんによく用いられます。

肩関節周囲炎は、肩関節の周りにある靭帯、筋肉の癒着により痛みや動かしにくさを生じる疾患です。肩関節周囲炎の治療として、正常な可動域を取り戻すためにリハビリテーションをおこなったり自分でストレッチをする必要があります。ところが、痛みに耐えて肩を動かすことは容易ではありません。そもそも痛いのは辛いですし、痛みがあるとどうしても肩の筋肉に力が入ってしまいます。痛みがあっても上手に力を抜ける人はまだ良いのですが、なかなか力を抜くことができない方も多くいらっしゃいます。肩の痛みを一時的にでも和らげてあげることで、リハビリテーションやストレッチの効果を改善することができる場合があります。

肩の痛みを取るブロック注射はいくつかあります。

まず、神経根ブロックや腕神経叢ブロックというブロックが有効です。これは、頚椎という大元の神経から腕を支配する神経が出てくる神経根という部分や、その少し末梢で神経が交差する腕神経叢という部分に麻酔薬を注入する方法です。しっかり効かせると、一時的に肩から腕まで、まるで自分の腕ではないように感じるくらいしっかりと痛みが取れます。

腕神経叢ブロックの効果範囲のイメージ

この神経ブロックの欠点は、運動神経も遮断されやすいことです。神経根や腕神経叢という部位では、痛みの神経である感覚神経と、筋肉を動かす運動神経が一緒になって走行しています。そのため、痛みの神経だけを遮断するということは原則としてできません。運動神経は感覚神経より太く、麻酔薬が効きにくいので、絶妙な量と濃度の麻酔薬を投与することで結果的に痛みだけが取れる・・・ということはありますが、人間の体は千差万別なので、毎回そこまでのコントロールをすることは現実的にかなり難しいと言えます。したがって、神経根ブロックや腕神経叢ブロックを行うときは、その後一定時間、そちら側の腕は動かしにくくなるということを念頭に置かなければなりません。また、様々な神経が周囲を走行しているので、一時的に声が掠れたりなどの副作用が生じる場合があります。

肩甲上神経ブロックは、その名の通り肩甲上神経を遮断するブロック注射です。肩甲上神経は、腕神経叢の一部から分岐する神経で、肩の痛みに強く関係する神経です。

肩甲上神経ブロックの効果範囲のイメージ

肩甲上神経ブロックは神経根ブロックや腕神経叢ブロックと比べると効果範囲が狭いので、鎮痛効果がやや見劣りする場合がありますが、その分支配する筋肉も少ないので、腕の動かしにくさはあまり生じません。厳密には棘上筋や棘下筋という肩の筋肉に関連しているのですが、他の筋肉が正常に働いていれば肩や腕を動かすことはできます。ただし、元々筋力が低下している方や、杖歩行の方は注意が必要です。

肩甲上神経ブロックは多くの方法がありますが、当院では肩の後ろから注射を行います。殆どの施設では、肩甲上神経ブロックを行う場合にランドマーク法と言って患者様の骨を目印にしてブロック注射を行っています。肩甲上神経ブロックは比較的皮膚からは遠い部分を目標とするので、以前は超音波断層装置(エコー)による確認が難しかったこともあるかもしれません。当院では、お腹の内臓等の深いところを観察するための「コンベックス」と言われるエコープローブ(探触子)を用いて、針の先がどこにあるかをリアルタイムで確認しながら施行しています。これにより、確実性と安全性を高めています。

当院エコーにより描出された肩甲上神経

肩甲上神経ブロックの処置時間は、通常20秒から30秒ほどです。(難しい症例ではもう少しかかる場合もあります。)

また、費用として、健康保険を用いる場合の肩甲上神経ブロックそのものの手技量は170点で、3割負担の方で510円、1割負担の方で170円です。(別途初診料、再診料、薬剤料等が発生します。)

効果には個人差があるため、無効な場合にはその他の治療を提案させていただきます。

辛い肩の痛みや動かしにくさを抱える患者様のお役に立てれば幸いですので、お気軽にご相談ください。