ランナー膝(腸脛靭帯炎)
ランナー膝という言葉は、特にマラソンを嗜む方々にはとても身近だと思います。単にランナー膝というと、走ることによって起きる膝周りの不調を全てひっくるめて表す場合もあります。しかし、多くの場合、医学的には腸脛靱帯という組織の局所的な炎症である、”腸脛靭帯炎”をランナー膝と呼びます。
腸脛靭帯炎組織は、膝の付近にあるふとももの骨(大腿骨)のでっぱり(外側上顆)と繰り返しこすれることで、しばしば炎症を起こします。

腸脛靭帯炎は、特に長距離を繰り返し走るマラソンランナーにとって悩みの種になります。
大腿骨外側上顆のでっぱりが大きい人やO脚が強い人は比較的なりやすいとも言われており、反対にかなりの負荷をかけても無縁な人もいるので、個人差があります。
日本で年一回以上ランニング、ジョギングを嗜む人は、1998年には男性8.7%、女性5.2%、全体6.9%でしたが、2020年には同14.6%、5.6%、10.2%となっており、特に男性で顕著な増加が見られました。(笹川スポーツ財団調べ https://www.ssf.or.jp/thinktank/sports_life/data/jogging_running.html)
腸脛靭帯炎は命に関わる病気ではありませんが、ライフワークを阻害されるストレスは想像以上に大きいものです。
多くの場合、腸脛靭帯炎は安静にすることで症状が改善しますが、ランニングを再開するとしばしば再燃します。
適切なリハビリテーションや、重症例においては投薬や注射など、各症例に合わせて治療のリスクと利益を衡量しながら方針を決めていく必要があります。腸脛靭帯炎の特徴として、長距離走での再発が多いため、復帰の際には比較的速いスピードで短い距離を走ることから始めて、徐々にゆっくり長い距離にしていくことがあります。ほとんどの怪我では、遅いスピードから徐々に速くしていくのですが、それとは逆のプロセスになります。このように、ランニングや競技復帰も医師やリハビリスタッフと相談しながら慎重に行なっていく必要があります。
当然、広義のランナー膝として、腸脛靭帯炎とは異なる膝の負傷を抱えている場合もあり、的確な診断が必要になります。ランニングやマラソンに伴う膝の痛みを抱えて困っている方は、是非お気軽にご相談ください。