一般内科

高尿酸血症(痛風)

高尿酸血症(痛風)

高尿酸血症は、読んで字の如く、血液中における「尿酸」という物質の濃度が通常より高い状態です。多くの場合、尿酸値が高いだけで直ちに症状がでるわけでありません。しかし、尿酸が上昇すると血液中に溶けきれなくなり、関節で尿酸の結晶が溜まっていきます。この結晶が関節で炎症を起こし、痛みや腫れを生じた状態を「痛風」と呼びます。

痛風は、風が吹いても痛いからそう呼ぶという説もあるほど、強烈な痛みを生じることがあり、歩けなくなることもしばしばです。痛過ぎて医療機関を受診できないとおっしゃる方もいます。痛風が一番起きやすい箇所は足の親指の付け根(MP関節)ですが、足首や膝に起こることもよくあります。

痛風の予防には、高尿酸血症を是正することが大切です。過度の飲酒や、プリン体を多く含む食品の摂取に注意すること、適度な運動をすることが大切です。とはいえ、尿酸値は個人の体質によりかなり左右されるので、特別不摂生をしていなくても尿酸値が高くなってしまう方もいらっしゃいます。男性しかならないと思っている方もいらっしゃいますが、女性に起こることもあります。多くの場合、尿酸は飲み薬でかなりの程度下げることができますので、必要に応じてお薬を使用します。

なお、既に痛風発作が起きているときは、いきなり急激に尿酸値を下げるお薬を飲まず、まずは炎症を抑える薬を投与することがほとんどです。痛風は尿酸値が高いことに起因しますが、その高い尿酸値が急激に低下する時にも発作が起こると言われている為です。一度発作が起きてしまうと、痛風の嵐が過ぎ去るまで尿酸降下薬を安易に投与することができないので、可能であれば発作を起こす前に予め尿酸値を下げてあげる方が理想的と言えます。

また、高尿酸血症や痛風は、腎臓の機能に悪影響を与えることもあります。これを「痛風腎」と言います。腎機能の低下は、最悪の場合、透析が必要となることもあるので、腎機能の評価は大切です。

また、尿酸による尿路結石が発生する場合もあります。尿路結石も極めて強い痛みを生じる疾患ですし、尿管に詰まると水腎症という状態にもなるため、注意が必要です。

ここまで高尿酸血症や痛風の怖さを説明いたしましたが、尿酸は人体にとって完全な悪者とも言い切れません。尿酸は非常に強力な抗酸化物質です。酸素は私たちが生きていくために必須の物質ですが、反面、わたしたちの細胞を傷害してしまう諸刃の剣でもあります。尿酸は、この酸素による酸化ストレスから細胞を保護してくれる作用があります。ですから、尿酸値は下げれば下げるだけ良いというわけではなく、きちんと検査結果を見ながら適正な数値を目指すべきです。そのために必要なお薬の種類や用量は、人によっても違いますし、時期によって異なることもあります。

ここからは余談ですが、痛風はかつて、西洋では「帝王病」、日本でも「贅沢病」と呼ばれ、裕福な人に特有な病気とされていました。古代マケドニアの王で、地中海からインドにまたがる大帝国を築いたアレクサンドロス3世(俗に言うアレクサンダー大王)や、フランス王国(ブルボン朝)の最盛期を築き、太陽王とも言われたルイ14世等、名だたる歴史上の人物が痛風に苦しんだという説があります。当時の庶民は、中々アルコールやプリン体の多い食事である肉類にありつけなかったため、痛風になる人は少なかったでしょう。そのため、痛風になるのは特別な地位にある人ばかりでした。

今では飽食の時代になり、美味しい食べ物やアルコールが身近になった分、痛風も身近な病となりました。そのため、現代人の感覚からすると質素な食生活に思えても、痛風になってしまうことは多々あります。糖尿病等、他の疾患にも言えることですが、飽食の時代というのは人類の歴史からすれば例外的で特異な状況であり、元来人類の歴史は常に飢えとの戦いでした。その為、人間の体の中には、少ない栄養で何とかやりくりする仕組みが多く備わっていますが、反面、豊富な栄養に対応できるような進化はあまりしてきていません。

それどころか、人間を含む類人猿は、尿酸を分解する「ウリカーゼ」という酵素を進化の過程で失ってしまいました。ウリガーゼは類人猿を除くほとんどの哺乳類が有すると言われています。裏を返せば、わたしたちの祖先はウリカーゼを失っても痛風になったりしないほど栄養状況が悪く、その為生存にそこまで不利とならなかったのでしょう。

むしろウリカーゼを失うことにより適度に高い尿酸値を維持することができるようになり、酸化ストレスに対抗することができるために、人間や類人猿の寿命が比較的長いという説を主張する専門家もいます。文明の庇護がない場合、つまり自然な野生環境における人間の寿命は40年程度と言われています。今や人生100年時代、世界に誇る長寿国である日本で暮らす私たちからすると、40年というとあまりに儚い人生に思えますが、実は同じくらいのサイズの哺乳類と比べると非常に長命です。哺乳類の寿命は基本的に大型のものほど長く、人間より遥かに大きいナガスクジラ等は流石に100年以上と長寿ですが、ライオンやトラ、ヒグマ、ウマといった明らかに人間より大きな生き物でも、実は野生環境だと20年に満たない程度しか生きません。その中で、人間やゴリラ、オランウータンといった類人猿はいずれも野生で40年程度の寿命があるとされ、とても長寿なのです。当然複合的な要因があるでしょうが、この要因の一つがウリカーゼの喪失であるという論説は、非常に興味深いと言えるでしょう。

少し話は脱線しましたが、尿酸値を適正に保つことは、健やかな生活のために極めて有用です。また、痛風と他の疾患を見分けてしっかり治療することも大切です。お悩みの方は是非お気軽にご相談ください。